まほろば一号序文

 見上げると
 臥遊堂新入荷目録壹號をお送りします。前回準備号は在庫目録でしたが、今回はそれ以降に入荷したものです。目録は年六回を予定。前回から一月半ほどの期間、盆休みもはさみ、どれほど本が集められるか心配でしたが、形だけは整ったかと思います。このうち二割ほどは京都で仕入れました。今は月に二度ほど京都の市場に足を運んでおりますが、大阪の市場にも出向く算段をしております。
 九月より店の対面に倉庫を借りることにいたしました。現在庫数が二千数百点、とても古本屋とは思えない量です。量より質、回転の速さで勝負だなどと資金のないのを負け惜しみ言っておりましたが、先立つものはともかく、当面は在庫の充実をはかりたいとの皮算用をいたしております。
 確か漱石だったかと記憶しています。大英博物館の図書室に初めて入り、その量の多さに圧倒され、こんなにも読まねばならぬ本があるのかと嘆息しきり、ポープの随筆の一節「丘の上に丘が山の上に山が顔を覗かせ」を引いていました。古本屋になり初めて市場に入ったときの感想がまさしくこれでした。無論、読む対象としてではありません。こんなにも多くの本が一日で捌かれてゆくのかという驚嘆でした。わたしの目にはゴミにしか見えない代物がです。しかし、これを捌いて生活している業者が確かに百人単位でいるという事実は厳然と存在します。倉頡が初めて文字を作った夜、鬼が哭いたという伝説が中国にあるそうです。文字は闇を光の世界にかえてゆくものなのでしょう。わたしにはいまだ光の届かぬ闇のものが、今日も市場で売り買いされ、たつきの具に代わっていくのを、哭くこともならず傍観しております。いまに泣きを見るのでしょうか、くわばらくわばら。

                平成二十三年八月十五日 臥遊堂一同拝

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