所好二号序文
臥遊堂沽価書目「所好」弐号をお届けいたします。
目録作成にあたり、特集を二本立てました。一つは写本の特集で、肉筆・自筆・写本(他筆)の三部構成といたしました。書写する内容よりも表現自体に重点を置いた写本を肉筆といたしましたが、恣意的な部立てとなった点は否めません。ただ、この部を立てることにより、開業以来手つかずにいた軸物を整理できたことは喜びとなりました。
いま一つの特集を武士の習いといたしました。この業界に身を置いておりますと、仏書や和文は言うに及ばず儒者の漢詩文や公卿の漢文日記なども、量こそ減るものの市場で手にする機会は少なくありません。貴族であれ町人であれ、その社会的・文化的背景を知るためにはどんな書籍を集めればよいか、古書店ごとに独自のノウハウを蓄積させていることでしょうが、武家のものとなると、叢書はおろか先行研究も少ないため、和本の類を一冊一冊手に取って吟味する以外に集める手立てがありません。貴族や町人とは明らかに異なる地平に立つ武家の精神的背景を、あぶりだすような特集を組みたいと勇み立ちましたが、今後の収集で少しでも稔り多いものにしたいと願うばかりです。
平成三十年新春 臥遊堂 野村竜夫拝