所好三号序文

12月 5, 2021

 臥遊堂沽価書目「所好」參号をお届けいたします。
 本号は「肉筆・写本」と「版本・その他」の部立とし、特集は設けませんでしたが、一括して入手した古筆と古文書が紙数を占める形となりました。
近く二歳になる息子は今まさに文字に目覚め、昼夜言葉漁りにいそしんでいます。わたくし自身、実家の目の前が片田舎にはめずらしい古本屋で、ご主人の膝の上を遊び場としていたとのことですから、書物との付き合いはかれこれ半世紀を過ぎる計算になります。
この業界に身を置いて早や十数年、右も左も皆目わからず五里霧中の船出でしたが、和本・唐本に限っても一万点を超える釣果を得、その多くは書影を残しています。商売柄、利益を出すことを度外視するわけには参りませんが、まだ見ぬ魚影に浮かされながら、珍籍貴書を狙って今日も投網する日々を送っています。
今日多くの公共機関が蔵書をデーターベース化し、ネット上に公開しています。それらが羅針盤とも探知機ともなって今日の臥遊堂が維持できており、ただただ感謝する毎日ですが、公共機関と古書店では蒐書の目的が違います。図書館に架蔵されていない珍籍が、古書肆の奥で埃にまみれていることも稀ではありません。一商店が集めた情報量は質量ともにささやかなものですが、ある時点で国内外に存在した古典籍のアーカイブとして資する点があればと公開に向けてパソコンと格闘するこの頃、目録刊行時までに本号掲載商品だけでもアップできればと願う次第です。
  平成三十年十一月二十四日      野村竜夫拝

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